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内科・脳神経外科・糖尿病内科・腎臓内科の
浦安やなぎ通り診療所
内科・脳神経外科・糖尿病内科・腎臓内科の
浦安やなぎ通り診療所
<認知症治療の目標>
認知症という病気は、全ての症例が診察や画像検査などで診断がつくわけではありません。また、服薬で完全に良くなるという疾患でもありません。
早期発見、早期介入は重要ですが、早い段階ほど認知症かどうか判断することが、難しくなります。
大切なことは、その患者さんを中心に、ご家族を含めて、社会制度や医療資源を活用し、生活を支えていくということです。
当院の認知症に対する診療は、令和元年6月に取りまとめられた認知症施策推進大綱(厚労省ホームページ参照)に沿って、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら「共生」と「予防」を行っていくことを目標にします。
認知症の診断・治療を当院において希望される場合、以下のようなケースが予想されます。
①認知症が心配で、患者さん本人主導で受診される場合
②認知機能低下(中核症状)が出現してきて、ご家族などとともに受診される場合
③認知症周辺症状(BPSD : Behavioral and Psychological syndromes of dementia 認知症の行動と心理症状)の診療のため受診される場合
④認知症の末期で、通院困難となり、近医である当院での診療を望まれる場合
などです。
当院では、いずれのケースも対応していきます。しかし、当院では行えない検査(脳MRIや核医学検査、脳波検査など)や治療できない場合は、他院で診断・治療を行って頂く場合がありますので、ご了承ください。
<認知症の症状>
認知症には、脳の神経細胞が壊れることによって、直接起こる中核症状と環境や周囲の人との関わりのなかで起きてくるBPSDと言われる周辺症状があります。
中核症状は、具体的には、
①直前に起きたことを忘れる『記憶障害』
②筋道を立てた思考ができなくなる『判断力の障害』
③予想外のことに対処できなくなる『問題解決能力の障害』
④計画的にものごとを実行できなくなる『実行機能障害』
⑤いつ・どこかがわからなくなる『見当識障害』
⑥ボタンをはめられないなどの『失行』、道具の使い道がわからなくなる『失認』、ものの名前がわからなくなる『失語』などがあります。認知症になれば誰にでも、中核症状が現れてきます。
介護者が対応に苦慮する多くは、中核症状よりもBPSDです。これは、暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊、もの取られ妄想、弄便、失禁などで、その人の置かれている環境や、人間関係、性格などが絡み合って起きてくるため、人それぞれ表れ方が違ってきます。
*軽度認知障害(MCI):正常高齢者の方と比較すると記憶が低下していますが、全般的知能は正常で、主観的な記憶低下であり、日常生活は問題ない状態です。年間5〜15%が認知症に進展すると言われていますが、16〜41%のM C I患者は認知症には進行せず、回復することも報告されています。予防するための対応策として、生活習慣病、身体疾患に対する指導や治療、禁煙など、また、栄養管理(緑色野菜や魚を中心としたバランスが取れた食事)、運動、知的活動(新聞や本を読む、ゲームを楽しむ、楽器を演奏するなど)、社会的交流などが報告されています。
軽度認知機能障害(MCI)という状態 −「私、認知症かしら」と心配な方、「おばあちゃん、最近物忘れがひどいは」と認知症が心配なご家族の方へ−
<認知症の主な分類とその特徴>
1.アルツハイマー型認知症
出来事の記憶障害がメインで、取り繕いや物盗られ妄想などが見られます。画像上、側頭葉内側の萎縮が目立ちます
2.脳血管性認知症
脳血管病変の部位に一致した認知機能障害・神経症状が見られます。まだらぼけで段階的な進行が見られます
3.レビー小体型認知症
幻視などが見られ、症状が動揺性です。錐体外路症状を伴い、転倒を繰り返すことから発見されることもあります
4.前頭側頭型認知症
性格変化や反道徳的な行為などが出現します。失語症状や記憶障害は比較的軽度です。画像では、前頭葉、側頭葉などに限局した脳萎縮が見られます
認知症の特徴 | 早期 | 中期から進行期 |
アルツハイマー型 認知症 |
記憶の低下:同じ話を繰り返す、物をなくす、探す | 取り繕い
物盗られ妄想 |
脳血管性認知症 | 感情鈍麻:表情が平板、悲哀、閉じこもり、うつ | 尿失禁、便失禁、誤嚥、 感情失禁、幻覚 |
レビー小体型認知症 | 幻覚:幻視、悪夢、薬で錯乱 | 幻覚(知らぬ人が同居など)
カプグラ症候群(近親者などが瓜二つの偽物と入れ替わったと確信する妄想) 無動 |
前頭側頭型認知症 | 意欲の低下:無関心、自発性低下、ものぐさ、無気力
常同行動:同じ椅子に座る、同じ物を食べる 情動変化:ニコニコ、不機嫌 |
脱抑制
常同行動(同じルートを散歩) 食行動異常(甘味、濃い味付け) 過食、口唇傾向 人まね |
<認知症の診断>
今までの症状や経過から、どのような種類の認知症かを予測し、また各種検査などを行い、診断していきます。認知症の鑑別診断をすることによって、その疾患に特徴的な症状、経過などを理解できます。これにより患者さんとの接し方や使用可能な有効な薬剤などが解ります。
まずすべきは、内科的な治療や手術などにより、改善する可能性のあるtreatable dementia(治療可能な認知症)かどうか判断することです。
<認知症の検査>
認知症治療を行なっていく上で、どのような認知症なのか病型診断をすることは重要です。検査には、認知機能検査(HDS-R、MMSEなど)、形態画像検査(CT、MRI)、脳機能画像検査(SPECT、PET)、血液検査、脳脊髄液検査、脳波検査などがあります。脳MRI、脳機能画像検査、脳波検査など当院で施行できない検査については、必要時には、近隣専門医療機関にお願いさせていただきます。
Treatable dementia(治療可能な認知症)
アルツハイマーなどの変性性認知症は、不可逆性に徐々に進行し、経過も長くなっていきます。しかし、そのほかの認知症の中には、早期に治療を行う事で劇的に認知機能が回復する場合もありTreatable dementiaと言われます。
以下のような疾患がないか頭部CTや脳MRI、血液検査などで精査を行い、治療可能な疾患を鑑別していきます。
<認知症の治療>
・非薬物療法
非薬物的療法とは、薬物を用いない治療的なアプローチで、リハビリテーションや心理療法などがあります。認知症の方と家族の方を支援する関わりや環境を整えることも大切な治療です。
最も重要なことは、患者さんにどのように接するか(ケア)ということです。パーソンセンタードケアとは、認知症を持つ人を1人の人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解し、ケアを行おうとする考え方です。また、バリデーション療法とは、認知症者の虚構の世界を否定せずに感情を共有し、認知症の方の「感情」を中心にした対話・コミュニケーション法です。
患者さんとどのように接するか(ケア)については、患者さんの人格や人生を尊重することがとても大事です。行動を否定したり、過度にプレッシャーをかけたりすることは良くありません。
認知症患者さんに対する介入には、認知機能訓練、認知刺激、運動療法、回想法、音楽療法、日常生活訓練などがあります。対象者によって効果のある治療法は異なります。対象者の生活をより良いものにするために必要なことを促して、本人が前向きに楽しんで行える方法を選択します。
・薬物療法
抗認知症薬には、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体阻害薬があります。ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬は患者さんの行動や感情、言動を活発化させる薬剤です。またメマンチン(NMDA受容体阻害薬)は行動や感情、言動を安定化させる作用があります。コリンエステラーゼ阻害薬は数種類あり、薬剤の半減期や製剤の形状(錠剤、貼付薬、液剤、ゼリーなど)などを考慮し、選択します。
BPSDに対しては、非薬物療法で改善しない場合や中核症状に対する抗認知症薬で改善がない場合に、その症状に対して、気持ちを落ち着かせる薬(抗精神病薬や漢方薬)、抗うつ薬、睡眠薬、抗てんかん薬などを少量から使用していきます。